今日は日本とオーストラリアの医療職における免許制度の違いを話したいと思います。オーストラリアの非常に合理的かつ患者の安全を守る役割を果たすこの「監視機関」の存在を知ったときは感動しました。

読んでほしい人
- タイトルが気になった人
- 日本とオーストラリアの制度の違いを知ってみたい人
- 日本で免許を必要とする医療職(例:医師・看護師・薬剤師etc.)についている人
- オーストラリアで医療職を目指しているけど将来知らなかったがために名前を晒されたくはない人
忙しい人のための要約
政府の独立監視機関、その名もアプラ(AHPRA)
一発アウトは二日酔い勤務、知り合った患者と性的な関係になること(退院後も含む)
そして公のホームページに名前がさらされる
日本の看護師登録は厚労省。オーストラリアはアプラ(AHPRA)

アプラ(AHPRA)とは Australian Health Practitioner Regulation Agency の略です。オーストラリアの資格を必要とする医療職はすべてここに登録され、またその免許は毎年更新制です。日本で言う厚労省みたいなところですが、アプラの違うところは医療系のみを取り扱う行政機関で、免許交付と同時に医療者に関する通報も受け付けているところです。
日本の場合は、厚労省は免許の交付はしますが免許抹消・業務停止は犯罪を起こさないとありえません。参考:保健師助産師看護師の行政処分の考え方
が、オーストラリアの場合は違います。犯罪の有無に関わらず「目撃しただけで絶対に報告しないといけない事項」が存在します。オーストラリアの看護師を目指して大学に編入する場合、必ず教わります。さらに課題を通してこの「報告義務」に関わる法律についても深く勉強します。
今回はその一部をご紹介。
Mandatory Notifications (報告命令・通報義務)

オーストラリアの行政機関アプラには、”Mandatory(=必須、強制) Notifications(=通知)”といっって、目撃すると報告義務が発生するルールがあります。これのベースになっているのが”The National Law”という法律です。日本の看護師でいう保助看法と同じぐらいの立ち位置です。
そこに、「通報命令」を発動させる4つのことが書かれています(直訳ではありません)。
- 国民の健康を危険にさらすリスクのある機能障害を認めたとき
- 薬物・アルコールの影響下にありながら業務を遂行した場合
- 専門職としての水準から著しく逸脱した言動
- 医療者ー患者との関係を確立したのちに性的関係になること(退院後も含む)
この法律のすごいところは「目撃しただけで報告の義務を負う」
すごいのが、「あなたがAHPRAに登録されている医療者である」だけで、あなたに「報告義務」が発生することです。報告義務の発動条件は「医療者として働いている最中にManatory Notification(絶対報告)事例を目撃したとき」です。意図的に報告をしなかった場合、あとで発覚したら目撃者も処罰の対象となります。あなたが患者としてその場にいた場合の報告は義務ではありませんが、同様にAHPRAへの報告が可能です。
Mandatory Notification事例
例えば、あなたが看護師として働いているときに、昨日飲んでいたらしい同僚の看護師が出勤してきました。酒臭い。しかもさっきトイレで吐いていました。
これはMandatory Reportingが絶対義務となります。
仕事中に患者といい関係(♡)になってお互いの同意のもとベッドで性的関係をもった
アウトです。発見しただけで報告事例です。
看護師として働く職場で超美人な患者さんがいました。連絡先をどうしても聞きたいけれど聞いてはいけない気がする。そんな時、彼女から連絡先を渡されました。嬉しすぎてあなたは、彼女の退院と同時に連絡をします。その後晴れて恋人どうしになりました。
アウトです。理不尽ですが、あなたの免許が吹っ飛ぶ可能性は高いです。

「ルール違反」「院内の厳重注意で済ます」なんていう生易しいものではありません。処分は政府機関にゆだねられます。
ただ、この「報告」はあなたが医療者として免許を持っていない限り「義務」は発生しません。もしあなたがオーストラリアで医療者になっていない場合は報告は義務ではありません。ちなみに二日酔いで働く医療者は日本で何度か見かけましたがオーストラリアでは絶対禁忌です。
では、Mandatory Notificationsの対象になることをした場合の処分はどうなるのか。
名前が政府のネットに晒される上に免許取り消し・生涯にわたり再取得不可にも

行政処分を受けた場合、本名がAHPRAのサイトに堂々と乗ります。名前検索もできます。地域検索でも出てきます。
さらに、法律違反の内容(患者とどの病院の病室で寝た等)が明記され、処分内容も書かれます。さらに、「業務停止命令」なのか「免許抹消」なのかも書かれます。
免許取り消しの場合は、生涯にわたり再取得が不可と命ぜられる場合があります。それも明記されます。ヤバいどころじゃないです。
「本当か?」と思う方で英語が読める人はこちらをどうぞ。本当にどこからでも検索可能です。
ニュースにもなる

実際に筆者が大学に在学中、実例としてニュースになった事案が授業中に取り上げられました。ここで紹介します。
准看護師としてある地域の精神科で働いていた20代前半の女性。勤務先の精神科病棟で男性患者と知り合い、退院後もフェイスブック(FB)で連絡を取り合う仲になる。その後交際に発展するが、しばらくして彼女から別れを切り出す。彼のFBをブロックをして関係を絶とうとした。
すると、男性は「お前が俺と付き合っているということを病院に垂れ込んでやる。お前の将来はこれでおわりだ」等脅迫をし始めた。彼女は耐えきれずに職場の師長に相談、Mandatory Notificationとして師長はAHPRAへ報告。彼女の身の安全が危ういため、脅迫行為として刑事事件に発展。一連の騒ぎがニュースとして報道される。
英語の記事はこちらです。
おわりに

日本だと二日酔いの体調不良でも出勤している看護師、医師がいますが、オーストラリアでは絶対にありえません。医療者として患者に出会った場合、どんなに素敵でも仕事と免許をまるごと失う可能性がありますので・・・個人的な連絡をとるのは、オーストラリアでは避けることをおすすめします。
出会いはアプリか合コンで♡
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