私は今、美容医療というものに関わっている。早いもので、専門の学位を取って数年経ってしまった。
私は発信が苦手だ。今日は雑記帳として美容医療について思うことを書いておく。練習として、書くことへのハードルが下がることを願って。
今まで様々な苦手があった。数学。物理。英語。中学生の頃、英検5級に落ちた歴史がある。全部それなりに克服してきた。でも、「SNSを活用しよう!」「何かを発信しよう!」が人生のなかでダントツの一番に苦手だ。こいつはもう本当にダメだ。ものを一つ書くのに1年かかる。Instagramに至っては投稿が一切できない。
なんでだろうと考えた。多分、誰にどうみられるかがとても心配だからだろうと思う。
私の仕事柄、SNSに投稿するコンテンツは内容よりも誰にどう伝わるかが最も大事になってしまう。そこで挫折して3年経つ。ならばここで、少しずつ自分がいる世界に関する小話をこぼしていこうと思って久々に文字を打つ。
私は現在、看護師(RN)として外科系の病院と皮膚科で働き、Cosmetic RNとして同じ院内で注入系の美容施術やレーザーの施術を行っている。
私が注射するものは、例えばボトックス系の施術やヒアルロン酸注射、そしていわゆる肌育系の注射等である。日本では医師の専売特許だけれど、ここオーストラリアをはじめ、ニュージーランド、イギリスやアメリカではRNも施術を行っている。レーザーは2年ほど前にライセンスを取り、現在進行形で師匠たちから学んでいる。
大学院の一年分の学位(Post graduate diploma)も美容皮膚科・形成外科系で取得した。気づかぬうちに「インサイダー」としての目をもってしまった。「ためになりそうな」情報なら、実は大量にある。
でも投稿できない。なぜか。自分が愚直すぎた。どうしても「美容医療」を華々しく見せたくなくて、「正しい見せ方とは」等悩んでいたら3年が経っていた。
私が触ろうとしていたInstagramは、人の感情を煽るような投稿が人の目を引く。バズる。美容に至ってはその最たるものだろう。人の目をひくけど、誇大広告ではない投稿ってなによ。
私がいる世界は、美容医療界隈だ。なんなら私が施術者だ。でも、SNSで次々と出てくる美容医療の投稿や、数千の「イイね♡」と、自分が見ている世界がかけ離れていて嫌気がさしている。参考にと思って「ボトックス 顔」「美容 医療」と日本語で検索したら、とんでもない症例(プロの施術としては失敗。お顔はビフォーの時点で施術しようといまいと、皆美しかったよ)が代表作として大量に出てきて、ショックとストレスで一度腹を壊した。
スキンケアは皮膚科学であり化学だ。今最も売れてるバズコスメ=良い商品じゃない。
Lしってるか。いかなるスキンケア用品も、年齢によるたるみやコケには効かん。私の母は、それを聞いてブランドコスメを買うのをやめた。
レーザーは物理だ。オンダだピコだなんだじゃない。「CO2レーザーが効く!打ち放題よっしゃ!」じゃねえ。そいつらは、出力を間違えたら一発で鼻をぶっ飛ばせる医療機器だ。なんで素人の患者が機械を指定して予約する仕組みになっとるんや。
とある医者が「うちのスタッフはお互いに練習し合っています✨」と、目の保護なし、どでかい鏡の目の前で立派な金属の腕時計に素手でレーザーを扱っているのをみて頭痛がした。ふつうにこんな投稿が、SNSにわんさかある。しかも数万のインプレッションと数千の「イイね♡」つきだ。
Lしってるか。君は人生でレーザーを二度見ることができる。一度は右目、二度目は左目だ。
レーザーを所有する医者なら知っていてほしかったが、反射物がレーザーのまわりにあること自体が絶対禁忌だ。レーザーが反射して保護サングラスの横から網膜を焼いて施術者が失明した有名な事例がある。
注入系注射は解剖、生化学、流動学、それと医学(全般)だ。いや多分もっとある。
日本ではメニュー表に「ボトックス」の量と値段があって、患者が投与量を指定するらしい。まじか。世界最強の神経毒を、一般人に量の指定までさせるのか。ガッツ石松の顔と、やせ型のゆりこちゃんの顔の筋肉では必要量が全然違う、というのは読んでるあなたでも分かるだろう。本来、どの薬も投与量は本人を診たあとで医療者が決める。
あと・・・ボツリヌス毒素はシワの根本原因の解決にはならないことを、誰か教育しているのだろうか。おっと話がそれたな。これはいつか別の機会に。
そういえば今日、とあるブログで「ボトックス」の施術レポを見た。
「ボトックス」はアラガン社から提供されているボツリヌス製剤のブランド名だ。有名すぎて施術名になってしまっているのはどの国も一緒だろうけど。ただ、本人が打たれた薬剤はボトックスではなく韓国Hugel社のBotulax(オーストラリアではLetybo)だった。写真のレシートは「施術名:ボトックス」「製剤:ボツラックス」と書いてあった。まぎらわしい。投与量も気になる点が多かった。
美容医療を本当に「医療」ととらえるなら、患者と対峙した際に精神科領域のアセスメントも必須になってくる。医療倫理は語るまでもない。
明らかにやせ型の患者が、マンジャロを受け取った瞬間に注射をうつ様子と、笑いながらみるスタッフを録画して投稿、「ほしい人連絡ください!!」じゃねえんだよ。
それを見た一般人はどう思うだろうか。多感な年齢の女性たちに、不健康なボディイメージを助長していないか。「え、私も痩せたい!」そう思うだろう。でも、そんな彼ら彼女らの心と体は医学的に健康なのか。その患者たちの人生は輝くのか。もっというと・・・本人の骨密度測ったか?筋肉量が減ることへの注意喚起、経過観察の採血はしたか?月経不順起きてないか、ホルモン値は?
勘違いされているかもしれないが、患者がレーザーや薬の知識をもつことは大事だ。でも、安全の担保は患者の仕事じゃないんだよ。患者が自分で調べてきて指定してきた施術内容と、本人が本当に必要な施術は、時として違うことがあるんだよ。それを提示するのが医療者の役目なんだよ。
とあるクリニックでは無資格のカウンセラーがまず最初に問診に入るのが普通と聞いた。その人が同意書のサインまで進めると聞く。まって。一体だれがリスクの説明をするん?顔面神経麻痺、起こるとどうなるかの説明まで医療者ですらないカウンセラーの責任?動脈塞栓、脳梗塞、失明のリスクは・・・?それを承知の上で施術の同意がされるのだけど、医療者は一体どこで現れるのだろう。
私の頭の中は「????」でいっぱいになった。これが「普通」っていったいどんな世界線。タイパってやつっすか。まさかゴリ押しして不必要なアップセルとかしてないよね?ね?ところでお顔の分析をする施術者は、この流れのいったいどこで登場するん?あと患者さんの醜形恐怖症(心の病気。この疾患疑いの人に施術するのは結果として健康被害を増長してしまう可能性が高い)リスクの評価は誰がしてるんや?
医療は、総じて楽しい。一人の人生が変わる。
美容「医療」として、誰かの「美」を考えるとき、自分を医療者と呼びたいのなら、本人の明日が輝くことを本気で考えないといけない。患者の心と体の健康をおきざりにして、危険にさらしてまですることは「美」なのか。
でも、知ってる。SNSでこれだけセンセーショナルにしてしまえば、現場で人のコンプレックスを突きまくれば、患者は来るだろう。
大半がこんな広告で埋め尽くされたInstagramの世界観に、それが現実となり、もはや「当たり前」となったこの世の中で、私はどうやって足場を作ればいいだろう。何も策が浮かばない。
始めたらとことん突き詰めるタイプの自分なので、私が過ごす世界は美容医療だけれどキラキラとは真逆の世界だ。だから切り取っても何の面白みもないだろう。
私の日常はこうだ。
ほぼ毎週の休みを施術トレーニングに費やしている。この道数十年の人たちに、毎週見られて評価されている。仕事中は患者のレーザーの設定をスタッフと話し、仕事終わりにはウェビナーやブリスベン内の勉強会に参加、あるいは論文を読み漁り、寝る直前まで各国の医者たちが繰り広げる議論に参加する。この顔をどう分析するか、ボリュームロスは、注射位置はどこそこから○ミリ、Gプライムがこれぐらいの、注入層は、そして手技は。写真の取り方からこだわる。コンサルテーションの技術も欲しい、解剖への興味も止まらない。
毎年どんどん出てくる製剤のデータと症例比較、クリニック専売品の化粧品たちの論文。寝不足になっても時間が足りない。それでも、偉大な先人たちの足元にも及んだ気がしない。脳みそが足りない。ヲタク気質なので、それでも技術と知識をとことん突き詰めたい。致死量の知に首を絞められつつ溺れていくのがとても楽しい。
無限の資金があれば、各国の医者たちに直接会いに行って、有料でシャドーイングをお願いしたい(相場は半日で10-20万)。数か月に一度の頻度で解剖ラボに行って、顔の解剖をもっと知りたい(相場:30-50万/回、飛行機代宿泊費別)。超音波(100-200万)を自分で買って使えるようになりたい(教育代別:200万~)。MRIの読解ができるようになりたい。学会にももっと行きたい(一回10万円~)
そんな姿勢で美容医療を話す私の目は、ギラギラしているだろう。客が欲しいんじゃなくて、知識への欲が隠せない。とてもカメラの前に出られる様子ではなさそうだ。それに、今のSNSを埋め尽くす「広告」が間違っているのだけど、これがトレンドや常識として広く受け入れられている以上、オカシイのは私の方だろう。話し始めたら怒りがおさまらないだろうな。でもネガティブな投稿はしたくない。
美容医療は、あくまで医療だ。ネイルやファッションのように、気分で選んでいいものではない。リスクとベネフィットを正しく理解して、上手に使ってほしい。そんなことを思うのだけど、今日もうまい見せ方が見当たらない。
私のクリニックでは、この理解ができないと判断した場合、施術を断っている。
ああ・・・「バズ」に心も購買行動も踊らされていた自分が、遠く昔に見える。自分の仕事を上手に表現できる方法が見つからずに、今日も一日が過ぎた。

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